全うして死ねばいいさ。

だめだろう、とは思っていた。
トランペットを、いまさら吹こうと思っても、もう吹けないだろう、と。
トランペットをやめて、もう丸六年。
唇は既にリップコントロールに耐えられる状態ではない。もしも吹きたかったら、また最初から鍛えなおさなければいけない。
いや、それ以上だ。心と身体の柔軟性という意味では、中学生時代とはわけがちがう。昔なら一年足らずで習得できたことも、いまは三年も四年もかかるだろう。
でも。
でも、何もかも忘れているわけではないかもしれない。吹いてみれば、わりと吹けるものなのかもしれない。昔のように吹きこなせないだろうけれど、そんな特技があったのかと、みんなに驚いてもらえる程度なら―
そんなふうに思っていた。
だめだった。
どこかで楽器を調達して練習してみようか。そう考えていた矢先、たまたま、キャンパスでトランペットを練習しているひとがいた。一般教養で世話になった音楽の教授だ。自分も昔、トランペットをやっていたことがある、と話しかけると、気さくに楽器を貸してくれた。
吹いてみた。
だめだった。
スカとも音がしなかった。
いや、音がまったく出ないわけではない。が、つぶれた屁のような音だ。
リップコントロールどころの話ではない。
丸六年。
そのギャップ。
その重み。
ずっしり、ときた。

長い時間をかけて培ってきたもの、それを失う重み。
僕は初めて、トランペットをやめたことを後悔した。失った―いや、自ら捨てたものの重み。それを実感した。

by 西澤保彦さん




こうなるだろうなと予想して、実際その通りだったのだが、それだけという訳でもなかった。

ただ山を歩いただけだった。次第に足が重くなり、なのに心はほぐれていく。大勢で歩いていながら、五感は一人、空に向かっていた。不思議な感覚に惑った。だが確かに感じた。来月以降の高田馬場勤務が決まってから子供の頃からずっと消えることなく心に掛かっていた鬱屈の霧が、ふっと晴れる一瞬があったのだ。

by 横山秀夫さん


無我。
チームスポーツであろうと、別に関係ないらしいと知った。
不思議と今まで言葉として認識・自覚してなかったな。












で、その一瞬さえあれば、あとは晴らせるものらしい。
自己欺瞞かもしれないが。







欲しいもののためならば聖人にも悪魔にもなろう
必要ならば罪人も救うし神も殺そう

by 手代木史織さん

アスプロスにもなりたいけどね。
めちゃくちゃ、なりたいけどね。
お前は反則過ぎだ。