そして、もう一つの記念日。






よもや、こんな御縁が自分にあるとは思ってなかった。
本当に感謝しか無い。



























ワトソン博士。
ぼくにはまだ、あなたに言い残していることがたくさんある。このぼくを物語として、物語を通じて生み出したのはあなただ。今ぼくは、物質化した情報としてここにある。ぼくが今こうして存在するのは、あなたのおかげだ。ほんの三年に満たない旅にすぎなかったが、かけがえのない、得がたい日々をあなたと過ごした。その旅がぼくをこうして形作った。あなたの物語をつなぐ手伝いを上手くできたか甚だ心許ないが、収支はまだ先のこととしてもらえればありがたい。
せめてただほんの一言を、あなたに聞いてもらいたい。
「ありがとう」
もしこの言葉が届くのならば、時間は動きはじめるだろう。
叶うのならば、この言葉が物質化して、あなたの残した物語に新たな生命をもたらしますよう。
ありがとう。
今、わたしは目を開く。万物の渦巻くロンドンの雑踏へと、足を踏み出す。

ーNoble_Savage_007

伊藤計劃さん×円城塔さん『屍者の帝国』より