誰に対して言っているのか。 - illusion I see alone in winter

敢えて言う。お前らは正しい、と。

口髭は三上を見据えて言った。綺麗な目をしていた。社会正義とやらを長年唱えていると、こんなガラス玉のような目が出来上がるのか。
by 横山秀夫さん

もういいじゃん。理想論は。
現実見ろよ現実をよ。
これ以上借金こさえてどうすんだよ。
平等も正義も安全も実現には金かかんだよ。
俺はガキ共なんぞに俺のケツ拭かれたかねんだよ。
それくらいなら、不平等で不正義で危険な社会でいいよ。
それが「俺たちの」限界なんだよ。「お前の」限界なんだよ。

生まれる前から返せるアテのない借金背負わされりゃ、そりゃヤケにもなるわ。
理解は、できると言わせてもらう。
それでよけりゃ、勝手にしろ。

こんな安い芝居で騙されるようなら、教師もバカだ。
そもそもやらせる親もバカだ。
お前を取り巻く全ての人間がバカだ。
お前を含めた、社会全体がバカだ。
俺も含めてな。

それでよけりゃ、勝手にしろ。

ただな。

ヤケも狂気も、どうせ長続きしないのよ。

この点、俺自身、甚だ遺憾に思うところではある。

「逮……逮捕」
呻いた。狂え、気が狂え。必死で願った。いっそこのまま気が狂ってしまえ、と。
「逮捕してくれ」
気が狂ってくれ。なにもわけが判らなくなってくれ。なにも感じなくなってくれ。頼む。
しかし鳴沢の頭は正気を保ったままだった。
by 西澤保彦さん