茶番だ。

わたしは工業と産業の信望者だ。南部の人間のような情は理解できない。迫りくる北軍の屍兵たちを前にして、騎馬で名誉ある突撃をかけるような馬鹿どもの気持ちはわからん。しかしわたしの体に流れる血は南部のものだ。その事実に心底嫌気もさしていた。激情に見舞われると理屈や損得を超えて爆発する正義や崇高といったものにも。それに身を任せることは心地良い。わたしはその心地よさを恥じ、そうして屍者へ目を向けた。感情を持たず、ただ黙々と命令を遂行する屍者たちに。

円城塔さん『屍者の帝国』より


クソ親父がクタバりざまあみんかいと思うや否や再び帰るハメになって、もはや自分のどこを探してもあの土地を憎悪する炎が見当たらない事実を確認して、今日、東京に帰ってきた。
正確に言うと、炎が消えて、焼け野原が広がってる。アンビバレントな感情の起伏が消えて、もう、何も感じない。
6歳離れた母方の従姉妹と、「今だから言うけど」っつって、微妙に年の離れた親戚しかいねーのが昔は辛くて、「昨日同い年のイトコと遊んだんだ〜」なんつってる同級生が真剣に殺意を覚えるレベルで羨ましかった、なんて話をしてきた。
そんで父方の叔母さんとこアイサツに行ったら、「うちの孫とアンタの甥っ子よ」っつって、20歳前後の美男美女が仲良さそうに写ってる写真(↓無許可掲載、敢えて手ブレ)見せられた。真ん中が甥っ子で、現在東大法学部(正確には文1)2年生。

一体俺はどうしたいんだろうな。















ヒトが棄郷するやクソ可愛いゆるキャラ作りやがって。




















「二度と来るな」と唾を吐く町
私がそこで生きてたことさえ「覚えもないね」と町が言うなら
今わの際にもそこは異国だ

百年してもあたしは死ねない あたしを埋める場所など無いから
百億粒の灰になっても あたし 帰り支度をし続ける

悪口ひとつも自慢のように ふるさとの話はあたたかい
忘れたフリを装いながらも 靴を脱ぐ場所があけてあるふるさと
しがみつくにも脚さえ見せない 恨みつくにも袖さえ見せない
泣かれる謂れも無いと言うなら あの世も地獄もあたしには異国だ

町をあたしを死んでも呼ばない あたしはふるさとの話に入れない
くにはどこかと聞かれる度に「まだありません」とうつむく
百年してもあたしは死ねない あたしを埋める場所など無いから
百億粒の灰になっても あたし 帰り支度をし続ける

中島みゆきさん『異国』より

本来自分が"属し"ていない場所にこそ、"いいもの"が在る―そんな価値観に、とり憑かれていたのではないだろうか。苛めっ子を糾弾するクラスメートたちの束にちゃっかり入り込んだりしたのは、必ずしも虎の威を借りたかっただけではなくて、そこに何か自分が持っていない"いいもの"が在る、と期待したからではないだろうか。総一郎は、何だか、そんな気がした。
明子は死ぬまで、自分がほんとうは何を欲しているのか、判らなかったのではないだろうか。だからこそ、その時によって、"いいもの"は東京という土地に在ったり、ライターという職業に在ったり、そして開業医夫人という身分にあったり、と、あっちにふらふら、こっちにふらふらと、目移りばかりしていた。他人が享受している"しあわせ"に、自分だけが乗り遅れてしまうかもしれない、という強迫観念に、かられながら。
まって、わたしにも、その"いいもの"をわけあたえて、みんなして、かってにしあわせに、ならないで……。
わたしをおいてゆかないで……と。

西澤保彦さん『呼び出された婚約者の問題』より




















お前、今回も散々、親戚のおっちゃんおばちゃんに世話になっただろうが、と。