単なる、自己の立場の投影。
私は彼女に、自分が書こうとしているのはほんとうにあった話だ、しかしそんな話はあるところまで進むと、事実であるだけに耐えがたくなってしまう、そこで自分は話に変更を加えざるを得ないのだ、と答える。私は彼女に、自分の身の上話を書こうとしているのだが、私にはそれができない、それをするだけの気丈さがない、その話はあまりにも深く私自身を傷つけるのだ、と言う。そんなわけで、私はすべてを美化し、物事を実際にあったとおりにではなく、こうあってほしかったという自分の思いにしたがって描くのだ、云々。
by Agota Kristofさん
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これ三部作で、第一作+第二作が実は事実ではなく物語だったと、第三作で明かされる仕掛け。
でね。いいと思うんだよ。ほんとに。事実なんか、別にどうでも。
物語がここまで美しくて、振り返る人の力になり得るなら。
…というよーなことを、、
これを見て思った、と。将来のいつかの時点、何かを乗り越える必要に迫られた杏奈の脳裏に浮かんだ物語がこれだ、と。
そう思っておくのが、個人的に、一番しっくり来る。
幻想と現実が混交してるしツッコミどころもあるけれど、ゆえにこそイイ話・イイ映画だし、これが『事実』であることを前提にした見方なぞ無粋極まりない、と。
しかしアリエッティもそうだったけど、米林監督になって世界を敢えて広げなくなった分、内向する刃の鋭さは増している気も、する。
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駿氏の方向性も無論極上だし、原作ナウシカももののけも好きだけどさ。
米林氏のソレも、大いに応援したい。
冒頭の、スケッチブック抱きしめて鉛筆ボキッって折っちゃう杏奈とか。
嵐の中憎悪に燃えた凄い目つきで走る杏奈とか。
全面的に最高というか、何と言うか。
こんな話を知ってる、ってミァハが言っていたのを思い出す。昔々、大昔の話。ある芸術家が広島の空にね、飛行機雲を使って「ピカッ」って文字を書いたんだ。どう思う。
「ピカ、って原爆だよね。とっても悪趣味だと思う」
「そうだよね、とっても悪趣味」
とミァハはとても嬉しそうに笑って、
「その芸術家は猛抗議を受けて謝罪する羽目になったんだ。その芸術が誰かを不快にさせたから、その芸術が誰かの倫理に傷を付けたから。いま、そんなことをやろうとする人は絶対にいないよね。事前に生府の警告を受けるもの。というか、そんなアイデアが浮かぶことだってないに決まってる。今はフィルタのおかげで事前に『見てしまう』ことへの警告があるからそもそも誰も見てくれないし、芸術家自身、そんな悪趣味なアイデアを思いつけないようになってる。昔の人の想像力が、昔の文学や絵画が、わたしはとってもうらやましいんだ、トァン」
「どうして」
「誰かを傷つける可能性を、常に秘めていたから。誰かを悲しませて、誰かに嫌悪を催させることができたから」by 伊藤計劃さん